
施光久恒『英語化は愚民化:日本の国力が地に落ちる』第1章から見る日本の政治の軽薄さ
施光久恒『英語化は愚民化:日本の国力が地に落ちる』(集英社 2015年)第1章をまとめながら、考察しました。日本の英語教育は本来あるべき「学術」でなく「社会」の要望に毒されています。ここでいう社会は聞こえが良いですが、「財界」の要望です。
の続きです。
- 第2章 グローバル化・英語化は歴史の必然なのか
- 日本語が「国語」の地位を失う危機
 - 「グローバル化=英語化=進歩」なのか?
 - 啓蒙主義とグローバル化
 - 「グローバル化史観」という現代のドグマー受け継がれる歴史法則主義
 - 戦後世代になじむ「グローバル化史観」「英語化史観」
 - 近代社会の基礎を揺るがすグローバル化
 - 中世ヨーロッパを支配していた「普遍語」=ラテン語
 - ラテン語が庶民を知的世界から排除していた
 - 宗教改革と「土着語」への聖書翻訳
 - 「土着語」による知が変革を起こした
 - 「翻訳」を通じて「国語」へと発展した「土着語」
 - 「土着語」の発展が庶民の自信を生み出した
 - 『方法序説』は「土着語」で書かれた「挑戦の書」
 - デカルトの戦略ー「土着語」による真の知的探求
 - 庶民の知的世界を広げた「翻訳」と「土着化」
 - 「翻訳」という知的対決がはぐくむ創造性
 - 「翻訳」と「土着化」こそが近代化の原動力
 - 普遍語(英語)の偏重は中間層を愚民化する
 
 - まとめ:600年前のグローバル化は失敗で改革を生んだ
 
第2章 グローバル化・英語化は歴史の必然なのか
日本語が「国語」の地位を失う危機
- 水村美苗『日本語が亡びるときー英語の世紀の中で』(筑摩書房、2008年)
 
リンク
- 
- 日本語が「国語」から「現地語」に成り下がる
 - 国語とは
- 豊かな語彙
 - 文法体系
 - 専門的な思考・議論が可能
 
 - 現地語とは
- 知的で複雑な事象を語れない
 - 日常のみ
 - 植民地化での使用
 
 
 - ↑の状態では初等・中等教育が限界
 - 大学など高等教育は無理(コスパ悪い)
 
「グローバル化=英語化=進歩」なのか?
- 「日本・ドイツ・フランスのような国民国家は古い」というボーダーレス化派の考え
- 村落共同体(市町村)→国民国家(国)→地域統合体(EUとか)→世界政府
 
 - ↑ヨーロッパのEUのように日本も「東アジア共同体」のような運命に?
 - ↑のような「グローバル化史観」は以下のものを破壊
- 自由民主主義
- 英語ができないと意思表示ができないといういびつな世界
 
 - 安定した経済社会
- 日本企業がつぶれて日本人のための経済が外国のための経済となる
 
 - 近代社会そのもの
- 格差が広がる
 
 
 - 自由民主主義
 
啓蒙主義とグローバル化
- ジョン・グレイ『ユートピア政治の終焉ーグローバル・デモクラシーという神話』松野弘訳(岩波書店、2011年)
 
リンク
- 啓蒙主義とは
- 人間を信頼
 - 合理的に世界を見る
 - より良きものへ進歩
 
 - ↑良いように思えるが、ボーダーレス化が「進歩」の宿命と理解されてしまう
 - ↑危ない…
 
「グローバル化史観」という現代のドグマー受け継がれる歴史法則主義
- 冷戦が終わるまでの啓蒙主義の代表はマルクス主義
 - マルクス主義とは
- 資本主義はダメ
 - 共産主義に自然に行きつく
 
 - 冷戦後もマルクス主義のような歴史法則主義は根強く残った
 - 皮肉なことに、↑と敵対していた新自由主義者が歴史法則主義を受け継いだ
 - メディアや本を通して↑が「グローバル化」という甘い言葉に変わり届けられる
 
戦後世代になじむ「グローバル化史観」「英語化史観」
- 団塊、ポスト団塊世代の言う「若者は外に出ない」
 - ↑高度成長期に都市部に出てきた高学歴の高齢者が、運よく豊かに慣れた過去
 - ↑の人たちが「これからは英語の時代だ」と言う
 
近代社会の基礎を揺るがすグローバル化
- ヨーロッパ近代社会は確かに「進歩」した
 - ↑は「土着から普遍へ」ではなく「普遍から土着へ」
 
詳しくは↓
中世ヨーロッパを支配していた「普遍語」=ラテン語
- 16世紀前半の宗教改革
- 宗教改革とは
- 「ローマ・カトリック協会(当時の一番強い教会)が堕落してるからやばいでしょ」運動
 - マルティン・ルターの免罪符批判
- 免罪符とは
- このお札買えば罪が許され救われますよ
 - ↑で利益を得る教会
 - ↑とんでもないビジネス…
 
 
 - 免罪符とは
 
 
 - 宗教改革とは
 - 宗教改革のほかに聖書の翻訳(「普遍」から「土着」へ)
 - ラテン語=ヨーロッパでは万国共通の言葉=普遍的
 - しかし、庶民はラテン語(聖書)を読めない
 
ラテン語が庶民を知的世界から排除していた
- 公文書=ラテン語
- 知識人が使える=教養のある人=グローバル・エリート
 
 - 日常会話=土着語
 - ↑ラテン語わからないと知識得られない「暗黒の社会」
 - 人を救うための宗教が「言語」によってエリートと一般大衆を切り離していた
 - 中世ヨーロッパはラテン語ができるもののみ権力を持つ「格差社会」
 
宗教改革と「土着語」への聖書翻訳
- ラテン語の聖書を翻訳
- ルター:ドイツ語
 - ティンダル:英語
 - カルヴァンのいとこオリヴィエ:フランス語
 
 - 庶民でも神の言葉がわかるように、わかりやすく
 - ヨーロッパにもたらした大きな変革
 
「土着語」による知が変革を起こした
- 改革の結果
- 中世ヨーロッパの権威構造(偉い人たち)の解体(をぶっこわした)
 - 偉い人たちは主にローマ教会←中世ヨーロッパの道徳の根幹
 - 政治も握る教会
 
 - 一般庶民は聖書を読めるようになり、教会に疑問を持つ
- 「え、聖書にローマ教会に従え、とか書いてない」
 
 - 教会側は改革派を弾圧
- ルター→波紋
 - ティンダル→処刑…
 
 
「翻訳」を通じて「国語」へと発展した「土着語」
- よくわからんラテン語、ギリシャ語、ヘブライ語の考え方をドイツ語、英語、フランス語にわかりやすく
 - 「土着語」=地元の言葉が広がると高度な知識も学べ、そして語れるようになる
 
「土着語」の発展が庶民の自信を生み出した
- 聖書翻訳の第三の効果
- 言語コンプレックスがなくなって
 - 地元の人々の言語と文化への自信
 
 - ヨーロッパ社会全体の活性化
 
『方法序説』は「土着語」で書かれた「挑戦の書」
- ルネ・デカルト『方法序説』(1637年、フランス語)=近代哲学の幕開け
 - フランス語で書いた理由:今までの学問に疑問、書物でなく世間から学ぶ
 
↓に続く
デカルトの戦略ー「土着語」による真の知的探求
- 一握り偉い奴らでなく女性を含む一般の人に読んでもらいたいデカルト
 - ↑中世の封建主義から近代の民主主義へ
 - 一般庶民も自分の言葉で考え、学び、論じる
 
庶民の知的世界を広げた「翻訳」と「土着化」
- デカルト以降の哲学
- フランス語:ヴォルテール
 - 英語:ホッブズ
 - ドイツ語:カント
 
 - 続いて法律・化学などの分野でも土着語の使用
 - 身の回りのことだけでなく、遠く離れた世界までも、考えて、話し合うことができるように
 
「翻訳」という知的対決がはぐくむ創造性
- 哲学者長谷川道子の指摘
- 翻訳という行為
- 翻訳される言語と翻訳先の言語との突合せ作業
 - ↑かなり知的な過程
 
 - ↑で「知的対決」が起こり、活性化され、「土着」が活性化し、発展・多様化する
 - ソクラテスの哲学は日常の言葉「ギリシャ語」でなければ成り立たない
 - 生活の現場から離れたラテン語では学べない
 
 - 翻訳という行為
 - 創造につながる「ひらめき」「カン」は土着語でないとほぼ不可能
- 数学者藤原正彦氏も母語を頼る
 
 
「翻訳」と「土着化」こそが近代化の原動力
- 第2章のまとめ
- 普遍のラテン語で書かれた「知」が翻訳
 - 各地域で受容:土着化
 - 翻訳と土着化で文化の活性と多様化
 - 各地域・社会になじみやすい文化の形成
 - ↑で社会参加しやすく、個々の能力を発揮しやすく
 - 活力と原動力をもたらす
 
 
普遍語(英語)の偏重は中間層を愚民化する
- ↑のまとめとは逆に
- 「グローバル史観」
 - 「グローバル化・ボーダーレス化こそ時代の必然的な流れ」
 - ↑は進歩だ、とする見方は正しくない
 
 - 日本で国語(日本語)が現地語化すると英語を話せる人だけが得をする社会ができる
 - 進歩ではなく、中世に逆戻り(ラテン語を普遍語としていた時代)
 - こんな「統一された地球」が本当に良いのか
 
まとめ:600年前のグローバル化は失敗で改革を生んだ
この章を読んで
- 「進歩」とか「グローバル化」とか言ってる人は、目の前の利益しかみておらず
 - 歴史的な前例や、似たような事例がどのような結末に至ったかを知らず
 - それでも「雰囲気で」なにかそこに得体のしれない理想があるように妄信
 
このような印象を受けました。

  
  
  
  
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