施光久恒『英語化は愚民化』第3章:明治時代に答えはあった

第一章

 

第二章

 

の続きです。

大学で英語教員をしている身としては、かなりグサグサと刺さってきます。

それではまとめていきながら考察します。

「翻訳」と「土着化」がつくった気近代日本

日本を近代化するには英語化、日本語か?ー森有礼(ありのり)の「日本語廃止論」

  • 英語化の議論は初代文部大臣森有礼が先だって1870年代(明治初期)から始まる
  • 欧米列強の不平等条約に対抗するための議論
今と同じ状況が140年前にあったのですね。突然の開国で、欧米のプレッシャーもあり、今よりも焦燥感があったでしょう。

外国人から上がった「英語公用語化」反対論

  • 森が協力を求めようと海外に手紙を送付
    • イェーる大学教授でアメリカ言語学会初代会長ウィリアム・ホイットニー
    • 否定的だった

↓に続く:

まず母国語を豊かにせよ

  • ホイットニー教授からの返答
    • 母語を捨て外国語で近代化した国はほとんどない
    • 英語を国語をするとその他「学問」ができない
    • ↑をできる人間だけが特別扱いされる
    • 一般と特別の断絶
  • お雇い外国人ダビッド・モルレーも同意見
    • さらに教育で使われる言語は変えてはいけない
    • 将来は日本語でものごとを教えられなければならない
今、英語化を進めている人にはグサグサと刺さる言葉ですね。

高等教育のための語彙がなかった明治初期の日本

  • 日本初の大学東京帝国大学や旧制高校はおおよそ外国語で授業
    • 1870-80年代は日本語の教科書がなかった
    • 日本語で教えられる教師がいない
    • つまり、お雇い外国人
  • ↑の状況で知識人(岡倉天心、内村鑑三、新島襄)は英語で学ぶ
  • だから英語がうまくなるのは必然的
  • 『茶の本』『代表的日本人』←日本人が書いた英語も評価が高い
  • 「英語公用語化」にとって↑は良い材料
明治初期の仕方なく英語で学んだ様子がわかります。

日本語による「文明開化」を信じた福沢諭吉

  • 森の英語公用語化を演説や『学問のすゝめ』で激しく批判
  • 文化が発展すると言語も発展する
福沢諭吉、土台がしっかりとした教育者ですね。浮足立つ官僚のちゃらついた思考に響く言論です。

英語化の罠を見抜いていた馬場辰猪(たつい)

  • 馬場辰猪とは
    • 慶應義塾の福沢諭吉のもとで学ぶ
    • イギリス留学で英語達者
    • 英語で日本語文法を書き、イギリスの出版社から『日本語文典』(An Elementary Grammar of the Japanese Language: With Easy Progressive Exercise)を出版
      • 森の言う「日本語には文法がない」を正々堂々と反論
      • 英語化への反論の理由4つ
        • 英語学習には時間がかかる。学ぶべきことの多い若者の時間が無駄に費やされる
        • 国の重要問題を論じるのが一握りになってしまう
        • 社会の分断が起こり、格差が固定化する
        • 国民の一体感が喪失(インドの前例)
    • 近代国家建設のためには「語彙」が足りない
    • 「英語化」はせず「翻訳」で語彙を高めていった
馬場の説得力があり過ぎて、脱帽です。英語教員として若者の時間を英語学習で奪っている私ですが、身に沁みます…

学術用語「翻訳鋳造」の苦心惨澹(さんたん)

  • 法学者 穂積陳重(ほづみのぶしげ)『法窓夜話』
    • 明治10(1877)年に日本gでお西洋の法律を説明可能に
    • 明治14(1881)年まで授業では英語ドイツ語など
    • 明治20(1887)年までは法理論を日本語で論じるのは難しい
  • ↑を経て日本語で授業をすることを目指した
英語の授業を百歩譲って英語でやったとして、現在、大学では英語以外の専門科目を「英語でやろう」という勢力があります。こういう歴史を知らないと、単に歴史を逆行していることになります。

大槻文彦『言海』への想いー国語辞書は近代国家存立の礎

  • 日本初の本格的国語辞典『言海』(1889-1891)
    • 文科省より編纂を命じられた大槻文彦
    • 10年以上、ほぼ独力で出版(!)
  • 辞典と言えば
    • イギリス:オックスフォード
    • アメリカ:ウェブスター
    • フランス:リトレ
  • ↑近代国家にはことばは必須、日本もやらないと
  • 当時のベストセラー
明治の皆さん、ありがとうございます。という感じですね。

「邦語教育」こそ国民精神の独立の要ー早稲田大学の建学理念

  • 日本語での授業を行うこと←理念!
  • 英語を学ぶ時間・労力カットして日本語で←コスパ精神!
とても国家観に芯のある大学ですね。

明治の近代化成功のカギは日本語の発展にあった

  • ヨーロッパの近代化
    • ラテン語を翻訳
    • 一般人もわかるように
  • 日本の近代化
    • 英語を翻訳
    • 日本語が豊かに
  • 当時の「英語化」をしなかったこと危機の時代を乗り切った(日本を守った)
英語化していたらどうなっていたのでしょう。ぞっとします。

学生の英語力低下を社会の進歩とみた漱石

  • 翻訳が定着してくるとお雇い外国人教師の比率が低下
  • 日本語で勉強できるようになる
  • ↑で語学力の低下
  • 漱石は↑を「正統な順序で発達した結果」と評価
  • ↑今と正反対!

↓続く

英語による教育は「屈辱」

  • 日本語の思考を使って学問を普及すべき

21世紀の「英語化」は近代日本150年への冒涜

  • 章のまとめ
    • 翻訳と土着化のプロセスは大切
  • 今の日本がやってるのは逆
  • 今まで紹介した明治の先人が懸念したこと
    • 一部しか政治参加できない
    • カネ・時間・能力のある人
    • 英語が使えるかどうかで格差が生じる
  • ↑国民の分断!
  • 実際に世界中で分断され、テロなど起きている

まとめ:明治にあったことを顧みずに「英語化」を叫ぶのは「私は勉強不足です!」と言っているようなもの←国を挙げてやってしまってる…

この章では日本の歴史を見て、実際にどのような状況だったかがわかりました。

とりあえず、英語化は危なすぎます。

「日本の英語力ガー!」

「国際的競争力ガー!」

↑こういう勢力って絶対いますよね。

 

英語力がない=英語がなくても生きていけている

国際的競争力がない=日本の中で生産活動ができる

 

英語を勉強することは素晴らしいことです。

ただ、一部がいびつな形で英語を強制するのは不自然で、良くないことが読み取れます。

2021年現在、まだデフレ状況で、国民が貧困化していきますが、知識も衰退するでしょう。

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