施光久恒『英語化は愚民化』第4章:「自由」とは何か

施光久恒『英語化は愚民化:日本の国力が地に落ちる』(集英社 2015年)の要点のまとめと考察する記事です。

今までは第一章:

施光久恒『英語化は愚民化:日本の国力が地に落ちる』第1章から見る日本の政治の軽薄さ
施光久恒『英語化は愚民化:日本の国力が地に落ちる』(集英社 2015年)第1章をまとめながら、考察しました。日本の英語教育は本来あるべき「学術」でなく「社会」の要望に毒されています。ここでいう社会は聞こえが良いですが、「財界」の要望です。

第二章:

施光久恒『英語化は愚民化』第2章:ラテン語とグローバル化の失敗
施光久恒『英語化は愚民化:日本の国力が地に落ちる』第2章では、一握りの知識人がラテン語を使用し、一般人はそれ以外の日曜語を使っていた様子が説明されています。日本が英語化すると、進歩せず、600年前の中世ヨーロッパに逆戻りすることがわかります。

第三章

施光久恒『英語化は愚民化』第3章:明治時代に答えはあった
施光久恒『英語化は愚民化:日本の国力が地に落ちる』第3章では、日本の明治時代のグローバル化の流れとその反対する著名人たちの攻防が良くわかります。今とほとんど同じような状況ですが、明治時代の方が、西洋の知識はなかったので、焦燥感が伝わります。

と続けてきましたが、ここでは第四章の要点まとめと考察をします。

第4章 グローバル化・英語化は民主的なのか

EUで上がる疑問の声

  • 地域の統合を成し遂げ一見「進んだ」ととらえられがちのEU
  • 実際は大きな疑問の声

↓続く…

民主主義の機能不全をもたらしたブリュッセル体制

  • EUを形成する「ブリュッセル体制」=「ヨーロッパの政治エリート同士の談合による寡占(かせん:少数がその場を支配すること)を表現したもの
  • フランスの歴史人口学者エマニュエル・トッドのEU批判
    • 不人気な政策(自由化・民営化)を「EUで決まったことだから」とする
    • ↑自国内で十分に議論しない=「土着」でない=民主的でない
    • 言語の問題

グローバル言語が損なう民主的正統性

  • カナダの政治学者ウィル・キムリッカが言語の観点から批判
    • デンマーク:ヨーロッパの言語上の小国
    • イタリア人との議論は難しい
    • でもヨーロッパを一つにしようとする…
    • 民主主義になってない
  • 議論に参加できるのは英語ができるエリート
「英語化」をしよう、つまり、EUのようになる、ということです。英語ができないと議論できないようになります。

「ネイション」に根差した自由民主主義

  • 「進歩」と思っていたことが「分断」
  • ↑を懸念し出てきた「リベラル・ナショナリズム」
    • 1990年代前半に登場
    • イギリス:ディヴィッド・ミラー
    • イスラエル:ヤエル・タミール
    • カナダ:キムリッカ
    • ↑を翻訳『ナショナリズムの政治学―規範理論への誘い』(ナカニシヤ出版、2009年)

  • グローバル化・ボーダーレス化は、あらゆる面で問題一般人の基本的な権利が奪われる

民主主義の前提条件としての連帯意識

  • 民主政治の必要条件:連帯(仲間)意識
    • 言語の共有:古くからの政治学の分野で指摘
      • 19世紀イギリス社会思想家J.S. ミル『代議制統治論』
  • 専制政治:政治権力が人々をまとめ、秩序を作る
  • 議論の根底に必要なもの:連帯意識・信頼感
  • ベルギーの事例
    • 北部:フラマン語(オランダ語の方言
    • 南部:ワロン後(フランス語の方言)
    • 東部:ドイツ語
    • 1830年の建国
    • 言葉を使う者同士で対立が深まる
    • 1993年に新憲法:それぞれが行政機関と議会を持つ
      • 問題:総選挙の度に国政が停滞
      • 理由:国に「連帯感」がない
    • 人類学者ベネディクト・アンダーソンの指摘
      • 出版・マスコミの発達:国民意識を形成
      • 共通の言語でニュースを見る
      • 小説を読む
      • ↑が同じ「共同体」に所属、と感じさせる
ベルギーでは言語が異なる「多文化国家」がわかります。そこでは、「多文化」であるからゆえに、分断してしまっています。日本で2つのグループ(日本語と英語)に分かれてしまうと、「分断」しますね。

日常の言葉で政治を論じることの大切さ

  • 法務省が2015年1月からヘイトスピーチを防止する啓発活動
  • 「ヘイトスピーチ」を英語のまま使用
    • 多くの日本語使用者は思考停止(意味が分からない)
    • 何が不当かがわからないまま使用され続ける
カタカナ語を使うと、何かかっこいいかもしれませんが、なんとなくしか理解できず、ふわっと、雰囲気で使われてしまいます。「ヘイトスピーチって何ですか?」ときかれて答えられますか?そこで、この本で言われている「翻訳」と「土着化」をしてしっかりと理解して、まずは日本の土壌でどのように使えばよいか知る必要がありますね。

言語の分断が格差を生み出す

  • ラテン語で分断した社会を作った中世ヨーロッパ
  • ヨーロッパの植民地になった経験のあるアジア・アフリカ
  • 言語政策専門山本忠行の調査
    • ガーナ・アフリカ諸国の経済格差=教育格差=英語・フランス語の運用能力
  • 言語ができない=教育できない=社会的・経済的「不」平等が生じる
日本で言えば、英語化してしまうと、教育格差が出てきて、英語ができるかできないだけで「だけ」で、給料が決まってしまいます。日本語で素晴らしい能力を発揮できる人がいても、英語ができてしまう、能力のない人が、出世してしまういびつな社会ができてしまいます。日本なのに。

福祉政策にも連帯意識が必要

  • フランスの歴史経済学者トマス・ピケティ『21世紀の資本』
    • 資産課税を強化
    • 税で再分配
    • ↑で格差が拡大する資本主義を継続できる
  • やはり「連帯意識」が必要
  • 言語が異なる「連帯感」のない社会では再分配は難しい(同意が得られない)
    • インドでは分断

自由そのものも言語が基礎に

  • 自由とは
    • 選択肢のある人生
    • 具体的に言うと、職業選択
    • ↑を平等に
    • 母語で学べる環境がないと学べない→「選択」できない→「自由」がない
母語で学べて、仕事が選べる。この時点である程度の「自由」なんですね。英語がないと仕事ができない、ということは自由を奪われれうことなのです。

グローバル化が自由民主主義を破壊する

  • 第4章のまとめ
    • 母語は超大切
    • 母語がないと「自由」「平等」も成り立たない
    • EU批判の根本は↑。「自分たちの言葉で政治参加できない」
    • それでもエリート層は言う
    • 「自由! 平等! 民主主義!」
    • ↑グローバル化・ボーダーレス化で中世に逆戻り…
    • ↑で格差拡大

第4章を考察

グローバル化した中世ヨーロッパは、ラテン語政策で失敗。

英語化された植民地は、分断。

そして現在、過去の失敗を見ずに

「グローバル化!」

「ボーダーレス化!」

を目指してしまっている日本…。

英語化されると、人生の選択肢が減り、「自由」が減ります。

そして英語ができないと給料が増えない、「平等」ではなくなります。

 

どんどん貧乏になっていって良いのでしょうか。

今日本で起きているのです…。

やめましょう。

 

私は英語教員ですが、ひしひしと感じます。

うすっぺらコミュニケーション英語教育で日本の英語教育だけでなく、日本語教育や、国民全体が薄っぺらになってしまうことを…。

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